令和4年度 若手新分野創成研究ユニット
根と葉をつなぐ
植物空腹・指令シグナルの可視化と制御
研究成果
Target pollen isolation using automated infrared laser-mediated cell disruption

2022.12.21
細胞集団から目的の細胞を選抜するには、抗生物質などの従来の選抜方法に加え、セルソーターやマイクロ流体デバイス、シングルセルピッキングなど様々な方法があります。一方で、従来の方法は多量の細胞や専門技術を必要とする場合が多く、手法によっては植物毒性を示すこともあるなど、様々な問題点がありました。
本研究では近赤外レーザーを用い、花粉集団から目的の花粉を半自動的に選抜する手法を報告しました。ボンバードメント法によって可視化した花粉を目的の花粉とし、それ以外の花粉をレーザー照射によって不活性化する操作を、マクロによって半自動化することで花粉の選抜を行いました。
レーザー処理後の花粉集団を受粉すると、めしべ上で花粉管を伸ばす様子が観察されたことから、目的の花粉が濃縮されたことが示されました。本手法は花粉に限らず、他の細胞集団にも有効と考えられます。
本研究成果は、2022年12月21日に英国の「Quantitative Plant Biology」誌に掲載されました。
Ikuma Kaneshiro, Masako Igarashi, Tetsuya Higashiyama, Yoko Mizuta
Quantitative Plant Biology (2022)
DOI: doi.org/10.1017/qpb.2022.24
Chemical synthesis of the EPF-family of plant cysteine-rich proteins and late-stage dye attachment by chemoselective amide-forming ligations

2022.11.11
化学的な手法によってタンパク質を合成することで、タンパク質の機能解明研究に必要な蛍光ラベルなどの化学修飾を精密に導入することができます。しかし、タンパク質は分子構造が複雑であるために合成に多くの工程が必要な上、修飾構造は合成の初期段階に導入する必要がありました。そのため、同一のタンパク質であっても様々な修飾構造を導入するためには、合成の工程のほとんどを繰り返し行う必要があり多くの労力が必要でした。タンパク質の機能解明を行う際には、それぞれのタンパク質や実験条件に適した化学修飾(例えば光特性や疎水性などが異なる蛍光分子など)を試行錯誤しながら探し出すことが重要ですが、修飾構造の異なる複数の修飾タンパク質を用意することに大きな労力と時間が必要なため合成の段階が研究のボトルネックとなっていました。
この研究では、シロイヌナズナの気孔形成を制御するEPFタンパク質(EPFL9、EPF2、EPF1)の合成を行いました。多くの官能基が共存する複雑な分子に対しても高速かつ選択的に結合を形成するKATライゲーション反応を利用して、化学合成の最終盤に化学修飾を導入することで合成工程を繰り返すことなく様々な化学修飾を導入したEPFタンパク質を効率的に合成することができました。またEPF2とEPF1はそれぞれNCL法とKAHAライゲーション法によってペプチド断片を連結することで合成しました。さらに、5種類の異なる蛍光分子を導入したEPFタンパク質の中から蛍光イメージング実験に適した蛍光ラベルEPFを選び出し、EPFタンパク質の上皮組織での局在を観測することに成功しました。
Nandarapu Kumarswamyreddy, Ayami Nakagawa, Hitoshi Endo, Akie Shimotohno, Keiko U. Torii, Jeffrey W. Bode, Shunsuke Oishi
RSC Chem. Biol. (2022)
DOI: 10.1039/d2cb00155a
Chemical synthesis of Torenia plant pollen tube attractant proteins by KAHA ligation

2022.6.1
花粉は雌しべの先端に授粉した後、花粉管を伸ばし雌しべの奥深くにある卵細胞に精細胞を届けることで種子の形成が始まります。このときに卵細胞は花粉管誘引物質LUREによって花粉管を卵細胞に導きます。この花粉管の誘引には種の特異性があり、同種の花粉管だけが誘引されます。この種の識別にはLUREペプチドのアミノ酸配列が鍵となることがわかっていました。
しかし、LUREペプチドは複数のシステイン残基によって複雑な立体構造をもつシステインリッチペプチドであり、遺伝子組換え技術による合成は困難でした。そのため、LUREによる種の認識機構の解明研究も困難でした。
本研究では、近縁種であるTorenia fournieriとTorenia concolorの2種類のLURE ペプチドを化学合成することに成功しました。さらに2つのLUREのハイブリッドの配列を持つキメラペプチドを合成し、種の特異性の鍵となる配列について明らかにしました。
(雑誌表紙採用)
Nandarapu Kumarswamyreddy, Damodara N. Reddy, D. Miklos Robkis, Nao Kamiya, Ryoko Tsukamoto, Masahiro M. Kanaoka, Tetsuya Higashiyama, Shunsuke Oishi, Jeffrey W. Bode
RSC Chem. Biol. (2022)
Deep Fluorescence Observation in Rice Shoots via Clearing Technology

2022.4.21
近年、様々な生物において、生物体内の構造を保ったまま立体的に観察する透明化技術が開発されています。しかしイネでは、根や葉など薄い組織の観察のみにとどまっていました。それは、茎など硬く厚い組織や、茎頂など撥水性の葉に包まれた組織は透明化溶液が浸透しにくいといった問題点があったためです。
そこで本論文では、透明化プロトコルの最適化をおこない、適切な組織固定ののちにビブラトームで目的部位以外を取り除き、透明化試薬に浸漬しました。その結果、透明化試薬の浸透性および均一性が向上し、さらに処理時間が短縮されました。共焦点顕微鏡で観察したところ、茎から茎頂、そして幼穂までの内部構造を広視野、かつ連続的に観察することができました。
本手法はイネだけでなく、硬くて厚い組織や層構造を持つ植物など、これまで透明化が困難であった他の植物にも有効であると考えられます。
Yoko Niimi, Keisuke Nagai, Motoyuki Ashikari, Yoko Mizuta
J. Vis. Exp. (2022)
DOI: doi: 10.3791/64116
Systemic Regulation of Iron Acquisition by Arabidopsis in Environments with Heterogeneous Iron Distributions

2022.4.21
植物は一部の根で栄養欠乏を感じると、まわりに十分な栄養が存在する別の根から相補的に鉄を吸収し、個体全体として取り込み量を最適に保つシステムを保持しています。しかし、この根と葉をつなぐ器官間コミュニケーションを担う分子メカニズムはほとんど明らかになっていませんでした。本論文では、鉄欠乏に応答した移動性シグナル分子を単離し、根と葉の間の器官間シグナル伝達機構を明らかにしました。
シロイヌナズナの根と葉の時系列トランスクリプトーム解析より、根で鉄欠乏を感知すると、周辺に鉄がある根では鉄吸収やクマリン合成が連動して活性化されることが明らかになりました。また、時系列の発現変動データからは「葉から根」への移動が推定される因子として、IRON MAN(IMA)/FEPを見出しました。さらに多重機能欠損変異体の解析から、IMA/FEPは「葉から根」への指令シグナル分子として機能することが明らかとなりました。
Ryo Tabata, Takehiro Kamiya, Shunpei Imoto, Hana Tamura, Kumiko Ikuta, Michika Tabata, Tasuku Hirayama, Hironaka Tsukagoshi, Keitaro Tanoi, Takamasa Suzuki, Takushi Hachiya, Hitoshi Sakakibara
Plant Cell Physiol. (2022)
DOI: 10.1093/pcp/pcac049